「中国五千年史」- 新石器時代から現代まで、王朝・人物・出来事をスクロールして辿る
中国では古くから、王朝ごとに過去の歴史を記録することが国家の重要な事業とされてきた。新しい王朝は前の王朝の歴史をまとめ、自らの正統性を示すとともに、後の為政者への教訓とした。こうして国家が公認した歴史書を「正史」と呼び、『史記』から『明史』までの24書は「二十四史」と総称される。ここでは正史に加え、日本でも広く読まれてきた代表的な歴史書を、成立の古い順に紹介する。
中国の歴史書の書き方には大きく二つの形式がある。「紀伝体」は、皇帝の年代記(本紀)と人物の伝記(列伝)を柱に、制度史や年表を組み合わせる形式で、『史記』に始まり歴代の正史に受け継がれた。人物像はよくわかるが、一つの出来事が複数の伝に分かれて記される。一方「編年体」は、出来事を年月の順に並べて記す形式で、『春秋』や『資治通鑑』が代表例。時代の流れを追いやすいのが特長である。
伝説の聖王から周までの「言葉」を集めた最古の史書
堯・舜・禹といった伝説上の聖王から夏・殷・周の君主や重臣の詔勅・訓戒・誓いの言葉を集めた書物。出来事を年代順に並べるのではなく、為政者の発言を記録する形式で、儒教の経典「五経」の一つとして重んじられた。秦の焚書で多くが失われ、後に伝えられたテキストには後世の偽作とされる部分も含まれる。
関連する時代を年表で読む →「春秋時代」の名の由来となった魯国の年代記
『春秋』は魯の国の紀元前722年から前481年までの出来事を年月順に簡潔に記した年代記で、孔子が編纂したとされる。わずかな言葉の選び方に褒貶(善悪の評価)を込める書き方は「春秋の筆法」と呼ばれた。その簡潔な本文に詳しい物語や背景を補った注釈書が『左伝』で、戦や外交、人物の言動を生き生きと描き、後の歴史叙述に大きな影響を与えた。
関連する時代を年表で読む →遊説家たちの弁論と策略を国ごとにまとめた書
戦国時代に諸国を渡り歩いた蘇秦・張儀ら縦横家の献策や弁舌を、秦・斉・楚・趙など国別に整理した書物。前漢末の劉向が宮廷に残る資料を校訂してまとめ、「戦国」という時代名もこの書名に由来する。「蛇足」「漁夫の利」「隗より始めよ」など、日本でもなじみ深い故事成語の出典が数多く含まれる。
関連する時代を年表で読む →伝説の黄帝から漢の武帝まで、約2000年を描いた「正史」の第一
前漢の歴史家司馬遷が、父司馬談の遺志を継いで完成させた通史。武帝の怒りに触れて宮刑という屈辱的な刑罰を受けながらも執筆を続けた。帝王の年代記「本紀」、諸侯の家の歴史「世家」、個人の伝記「列伝」、年表「表」、制度史「書」を組み合わせた紀伝体という形式を確立し、以後の正史はすべてこれにならった。項羽と劉邦の戦いや「鴻門の会」、刺客や商人の列伝など、人間ドラマとしての文学的評価も高い。
関連する時代を年表で読む →一つの王朝だけを扱う「断代史」の手本
前漢の建国から王莽の新の滅亡までを扱った歴史書。『史記』が複数の時代をまたぐ通史だったのに対し、一王朝の歴史だけをまとめる「断代史」の形式をとり、以後の正史の基本形となった。父班彪が始め、班固が書き継ぎ、班固の死後は妹の班昭が未完部分を仕上げた。地理志には「楽浪海中に倭人あり」と、日本についての最古級の記述が見える。
関連する時代を年表で読む →魏・呉・蜀の正史。卑弥呼が登場する「魏志倭人伝」を含む
蜀に仕え、後に西晋の官僚となった陳寿が著した魏・呉・蜀三国の正史。晋が魏から禅譲を受けた王朝であったため、魏を正統として扱っている。記述は簡潔で、後に南朝宋の裴松之が多くの史料を引いて詳細な注を付けた。小説『三国志演義』とは別物で、こちらは史実を記録した歴史書である。「魏書」東夷伝倭人条、通称「魏志倭人伝」には邪馬台国と女王卑弥呼の記録があり、日本古代史の第一級史料となっている。
関連する時代を年表で読む →光武帝の再興から後漢の滅亡までを描く
後漢王朝の歴史を記した正史。成立は『三国志』よりも後の南朝宋の時代で、范曄がそれまでに書かれた複数の後漢史を整理して著した。蔡倫の製紙法改良や、黄巾の乱など後漢末の混乱も描かれる。東夷伝には、57年に倭の奴国が使者を送り光武帝から印綬を授かった記事があり、志賀島で発見された金印「漢委奴国王」との関係で知られる。
関連する時代を年表で読む →名君・唐の太宗と家臣の問答を記した「帝王学の教科書」
唐の二代皇帝・太宗(李世民)と、魏徴・房玄齢ら名臣たちの政治をめぐる問答を、テーマ別にまとめた書。太宗の治世は「貞観の治」と称えられ、臣下の厳しい諫言を受け入れた姿勢がよく知られる。日本でも北条政子や徳川家康が愛読したと伝えられ、現代でもリーダー論の古典として読まれている。
関連する時代を年表で読む →戦国時代から五代十国まで1362年を年代順に描いた大著
北宋の政治家・歴史家司馬光が、約19年をかけて完成させた全294巻の大編年史。紀元前403年(韓・魏・趙の三家が諸侯と認められた年)から959年までを、年月順に一続きに叙述する。書名は「治世に資する鏡」という意味で、皇帝が政治の手本や戒めとするために編まれた。紀伝体の正史では人物ごとに散らばる出来事を一つの流れで追えるため、通史としての評価が非常に高い。
関連する時代を年表で読む →日本で中国史入門書として広く読まれた要約版
『史記』をはじめとする17の正史と宋代の史料、あわせて18の歴史書を要約し、伝説の時代から南宋の滅亡までを一冊にまとめた初学者向けの歴史書。中国本国ではそれほど重視されなかったが、日本では室町時代に伝わり、江戸時代から明治にかけて漢文の教科書として広く読まれた。「臥薪嘗胆」「鶏口牛後」などの故事も多く収められ、日本人の中国史のイメージ形成に大きな役割を果たした。
関連する時代を年表で読む →清の乾隆帝の時代に正史として公認された24の歴史書。「成立」は書物が編纂された時代を示す。民国期に編まれた『新元史』や、未定稿の『清史稿』を加えて「二十五史」「二十六史」と呼ぶこともある。
| # | 書名 | 主な編者 | 成立 |
|---|---|---|---|
| 1 | 史記 | 司馬遷 | 前漢 |
| 2 | 漢書 | 班固 | 後漢 |
| 3 | 後漢書 | 范曄 | 南朝宋 |
| 4 | 三国志 | 陳寿 | 西晋 |
| 5 | 晋書 | 房玄齢 他 | 唐 |
| 6 | 宋書 | 沈約 | 南朝梁 |
| 7 | 南斉書 | 蕭子顕 | 南朝梁 |
| 8 | 梁書 | 姚思廉 | 唐 |
| 9 | 陳書 | 姚思廉 | 唐 |
| 10 | 魏書 | 魏収 | 北斉 |
| 11 | 北斉書 | 李百薬 | 唐 |
| 12 | 周書 | 令狐徳棻 他 | 唐 |
| 13 | 隋書 | 魏徴 他 | 唐 |
| 14 | 南史 | 李延寿 | 唐 |
| 15 | 北史 | 李延寿 | 唐 |
| 16 | 旧唐書 | 劉昫 他 | 後晋 |
| 17 | 新唐書 | 欧陽脩・宋祁 | 北宋 |
| 18 | 旧五代史 | 薛居正 他 | 北宋 |
| 19 | 新五代史 | 欧陽脩 | 北宋 |
| 20 | 宋史 | 脱脱 他 | 元 |
| 21 | 遼史 | 脱脱 他 | 元 |
| 22 | 金史 | 脱脱 他 | 元 |
| 23 | 元史 | 宋濂 他 | 明 |
| 24 | 明史 | 張廷玉 他 | 清 |
歴史書をもとに書かれた小説「四大名著」や、史書に由来する故事成語も別ページで紹介しています。